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千葉家庭裁判所一宮支部 平成4年(家)37号 審判 1993年5月25日

申立人 乙山乙一

相手方 甲野甲一 外22名

被相続人 甲野花子

主文

1  被相続人の遺産である別紙遺産目録記載の各土地を次のとおり分割する。

(1)  別紙遺産目録記載Iの土地は、相手方甲野甲二及び同甲野戊二が共同取得する(持分、相手方甲野甲二7分の4、同甲野戊二7分の3)。

(2)  別紙遺産目録記載IIないしVIIの各土地は、いずれも、相手方丁月丁二、同卯野戊美、同辰野戊代及び同巳野戊枝がそれぞれ共同取得する(持分、相手方丁月丁二6分の3、同卯野戊美、同辰野戊代及び同巳野戊枝各6分の1あて)。

2  相手方甲野甲二及び甲野戊二各人は、同丑川丙美に対し、各金17万5000円あてを支払え。

3  手続費用は各自の負担とする。

理由

当裁判所は、本件審理の結果、以下のとおり認定判断する。

1  相続人及び相続分

被相続人(明治18年6月15日生)は、昭和31年9月28日死亡し、同女につき同日相続が開始した。

そして、被相続人を相続しあるいは相続し得べき者は、その弟甲野一郎(明治22年4月6日生)、同妹乙山春子(同28年7月14日生)、同丙川夏子(同31年6月20日生)、同弟丁月二郎(同34年10月3日生)及び同甲野三郎(同37年9月2日生)の5名であり、相続分は各5分の1あてであるところ、本件各当事者が、これらの者から同各相続分を承継取得するに至った経過は、以下のとおりである。(以下、当事者らの表示については、特に示すほか、「一郎」、「相手方甲二」の如くいう。)。

(1)  一郎について

一郎は昭和10年6月16日死亡していたため、同人が相続すべき上記5分の1の相続分は、同人の長男である相手方甲一(大正6年5月7日生)、同長女である同甲子(同12年4月25日生)及び同二男である同甲二(昭和2年2月27日生)の3名が、各15分の1あての割合により共同して代襲相続した。

(2)  春子について

春子は昭和46年10月21日死亡したため、同女が相続した上記5分の1の相続分は、同女の長男である申立人(昭和3年2月10日生)が単独相続した(なお、春子の夫である乙山四郎(明治32年12月20日生)は、昭和19年10月25日死亡している。)。

(3)  夏子は昭和58年8月19日死亡したため、同女が相続した上記5分の1の相続分は、同女の長女である相手方丙子(大正14年12月8日生)、同二女である同丙美(昭和4年12月5日生)及び同長男である同丙一(同11年2月3日生)の3名が各35分の2あての割合により共同相続し、更に、夏子の男である寅川寅一(大正7年5月11日生、昭和58年1月20日死亡)の長女である相手方寅子(昭和24年1月2日生)、同長男である同寅二(同27年3月5日生)及び同二男である同寅三(同28年12月19日生)の3名が105分の1あての割合により共同して代襲相続した(なお、夏子の夫である丙川五郎(明治28年4月10日生)は、昭和20年3月9日死亡している。)。

(4)  二郎は昭和51年2月16日死亡したため、同人が相続した上記5分の1の相続分は、同人の妻である相手方秋子(明治34年10月28日生)が15分の1、二郎の長男である同丁一(昭和5年12月22日生)、同二男である同丁二(同7年11月8日生)、同長女である同丁子(同13年6月5日生)及び同二女である同丁美(同16年6月3日生)の4名が各75分の2あての割合により、更に、二郎の三男である丁月丁三(同9年1月23日生、同62年6月8日死亡)の妻である相手方丁代(同17年1月15日生)が150分の2、丁三の長女である同丁枝(同42年10月20日生)及び同長男である同丁四(同46年3月24日生)の2名が各150分の1あての割合により、各共同相続した。

(5)  三郎は昭和22年8月15日死亡していたため、同人が相続すべき上記5分の1の相続分は、同人の二男である相手方戊二(昭和6年8月19日生)、同長女である同戊子(同9年11月23日生)、同二女である同戊美(同12年9月1日生)、同三女である同戊代(同15年9月15日生)、同四女である同戊枝(同18年9月4日生)及び同三男である同戊三(同21年8月30日生)の6名が各30分の1あての割合により共同して代襲相続した(なお、三郎の長男である甲野戊一(昭和5年5月29日生)は、昭和5年8月3日死亡している。)。

以上については、昭和37年法第40号による改正前の民法887条2号、同改正前の同法888条1項、同改正前の同法889条1項第2号及び2項、同改正後の同法887条1項及び2項、同法890条、同法900条1号(昭和55年法第51号による改正前後のもの)ならびに同法900条4号(昭和37年法第40号による改正前後のもの)を、それぞれ適用した。

2  相続分の譲渡

(1)  本件審判手続が進行中に、

相手方甲一及び同甲子は、上記1(1)の如く各承継した各人の相続分を、いずれも全部、同甲二に対し、

申立人は、上記1(2)の如く承継した相続分を半分あて、相手方甲二及び同戊二に対し、

相手方丙一、同寅子、同寅二及び同寅三は、上記1(3)の如く各承継した各人の相続分を、いずれも全部、同丙子に対し、

相手方丙子は、上記譲受けた各相続分に上記1(3)の如く承継した同相手方の相続分を加えたものを半分あて、同甲二及び同戊二に対し、

相手方秋子、同丁一、同丁代、同丁枝、同丁四、同丁子及び同丁美は、上記1(4)の如く各承継した各人の相続分を、いずれも全部、同丁二に対し、

相手方戊子及び同戊三は、上記1(5)の如く各承継した各人の相続分を、いずれも全部、同戊二に対し

それぞれ譲渡した

なお、上記のうち、各相続分譲受けの対価として、相手方甲二及び同戊二から、申立人に対し各250万円あてが、同丙子に対し各75万円あてが、それぞれ支払われたが、その余の各譲渡についてはいずれも無償である。

(2)  上記(1)の次第により、本件遺産分割は、相手方甲二(相続分210分の78)、同丙美(同210分の12)、同丁二(同210分の42)、同戊二(同210分の57)、同戊美(同210分の7)、同戊代(同210分の7)及び同戊枝(同210分の7)の7名の間で行われる結果となった。

3  遺産の範囲及び評価

(1)  本件において考慮することとなる被相続人の遺産は、別紙遺産目録(以下「目録」という)記載Iの宅地1筆と目録記載IIないしVIIの田6筆である。

これらのうち、宅地については、事実上、相手方甲二及び同戊二が、同地上に物置や車庫を建てるなどして使用している。他方、田については、6筆が一体となった形をなしているところ、うち半分位を相手方戊二の事実上の管理のもと第三者に賃貸しているが、残余の部分は休耕地となっている。

(2)  本件審判手続においては、当事者のいずれも、本件遺産の評価をなすにつき鑑定手続によることには積極的でなく、ただ、具体的な価額の手掛かりがまったくないことには具合が悪かろうということで、分割を検討する上での一応の目安として、目録記載Iの宅地を坪当たり30万円と、目録記載IIないしVIIの各田を全部で100万円と、それぞれ見積っておくことで事実上話が進行しており、後記4(2)の如く、結局は、関係当事者間において、これに即した合意が交わされた(ただし、相手方丙美は除く)。

4  遺産の分割

(1)  本件遺産分割については、被相続人が死亡した翌年頃より、主として申立人のはたらきかけによって、当事者間で幾度か話合いがもたれたが、協議がまとまらないまま、被相続人の死後約35年経過した平成3年×月×日、申立人から当裁判所に遺産分割調停・審判の申立がなされるという経緯を辿ったものである。

そして、平成×年×月×日に行われた第4回調停期日において調停が不成立に終り、審判手続に移行した後、手続を重ねる中で、上記3(2)の事情も相応に考慮に入れつつ、上記2(1)で認定した如く、その一部に、申立人及び相手方丙子と同甲二及び同戊二とのそれぞれの間における実質的な金銭解決を含んだところの各相続分の譲渡がなされるに至った。

(2)  更に、平成×年×月×日に行われた第9回審判期日で、上記2(2)に掲記した当事者らのうち、相手方丙美を除くその余の各当事者間において、

本件遺産の評価につき、上記3(2)に掲記したと同旨の、

本件遺産の分割につき、目録記載Iの宅地は、相手方甲二及び同戊二が共同取得すること(平成×年×月×日に行われた第10回審判期日において、相手方甲二及び同戊二間で、双方の取得割合は、同甲二が7分の4、同戊二が7分の3と合意される。)、目録記載IIないしVIIの各田は、いずれも、同丁二、同戊美、同戊代及び同戊枝がそれぞれ共同取得すること(取得割合は、相手方丁二が6分の3、同戊美、同戊代及び同戊枝が各6分の1あて)以上の如く合意がなされた。

また、これとは別に、上記第9回審判期日において、相手方甲二及び同戊二と同丙美との間で、同相手方の相続分を半分あて、同甲二及び同戊二に対し、各17万5000円あての対価でもって譲渡するという合意がなされたことから、同相手方らにおいて、これにしたがい、第10回審判期日に、それぞれ17万5000円あての現金を持参したところ、当日、同丙美において、遺産の評価に不満があるということで翻意したため、その履行がなされないままとなった経緯がある。

(3)  ところで、当裁判所は、本件遺産分割につき、上記2(2)に掲記した当事者らにとってみた場合、これは両親など直系尊属の遺産にかかるものではなく、いずれも、伯母と甥あるいは姪との関係にあるものの間における事案であること、それだけに、前者の場合に比し、これらの当事者らと、被相続人の生前における同人や本件各遺産との関わりについては、一部の者を除き親近性ないし密着性が薄かったであろうことはおそらく否定し得ないものと思料されること、上記4(1)の如く、本件分割については、従来何度か話し合いがなされてはいるものの、申立人を除くその余の当事者らは、全体的にこの問題について積極的な態度をとっておらず、中には関心の乏しい者もかなり居たことが窺われること(上記2(1)の如く、無償での相続分の譲渡が多く行われていることもこの間の事情を裏付けるものと解される。)、上記4(1)からも明かな如く、現在では、本件相続が開始してから既に37年近くの年月が経過しようとしていること等の各事情が指摘できることをふまえた場合、遺産の評価と各相続分に照らした各人の取得分が、客観的にみてある程度均衡に欠けるところがあっても、関係当事者間で合意に達し、あるいは、それと同様な状況がみられる場合には、これに即し事案の解決を図ることも、早期解決を図る意味からして許されると考えるものである(上記3(2)及び4(2)における評価に関する合意も、かかる見地に照らし、関係当事者間の早期解決に向かっての意欲を促すという意味で意義を持つというべきである。)。

かかる観点に立った場合、本件遺産分割は、上記(2)で掲記したところの、相手方甲二、同戊二、同丁二、同戊美、同戊代及び同戊枝間で交わされた合意はもとより、同甲二及び同戊二と同丙美との間で一旦交わされた合意をも含めたところに立脚して行われるのが相当と判断するものである。

もっとも、相手方丙美が、一旦交わした上記合意をその次の審判期日において翻意していることは上記(2)のとおりであるが、同相手方自身、遺産の評価に不満があるといいながら、自ら鑑定手続によりこれを行う意向まではまったく有していないと認められることに照らすと、当該翻意は、単なる心変わりの域を出るものとは思われず、当裁判所の上記判断を左右するに足る事由とは解し難い(ちなみに、相手方丙子は、平成×年×月×日に行われた第8回審判期日における上記2(1)で掲記した各相続分譲渡の合意にしたがい、その対価として、第9回審判期日において、同甲二及び同戊二から各75万円あてを受領していながら、第10回審判期日で突然、当該各相続分の譲渡を撤回したい旨申出ている。しかし、このように、審判手続の中で一旦成立した合意に基づく履行が完了している以上、そのような申出を容れる余地はなく(相手方甲二及び同戊二も、同丙子の当該申出を拒否している。)、したがって、これを本件審判に際して取り上げるべき理由・必要はない。)。

(4)  以上検討したところにしたがい、本件遺産分割は、目録記載Iの土地を、相手方甲二及び同戊二において(取得割合、相手方甲二7分の4、同戊二7分の3)、目録記載IIないしVIIの各土地を、同丁二、同戊美、同戊代及び同戊枝において(取得割合、相手方丁二6分の3、同戊美、同戊代及び同戊枝各6分の1あて)、各共同取得し、また、同甲二及び同戊二は、同丙美に対し、くだんの各相続分の譲渡に実質上沿う意味で、代償金として各17万5000円あてを支払う(家事審判規則109条)という方法により行われるのが相当であると思料するものである。

5  よって、主文のとおり審判する。

(家事審判官 石村太郎)

別紙 遺産目録<省略>

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